パン職人だって仕事を辞めたい時期がある

パン職人だって仕事を辞めたい時期がある

小さい頃から大好きな物の一つがパンです。
焼きたてのフワフワを口に入れた瞬間の幸せ。
香ばしさと柔らかさが同居する口内から鼻に抜けていく豊かな香りはたまりません。

 

そんな私が今、夢中になっているのはパン作りです。
食べるだけでは飽き足らず、小麦粉から手作りするようになったのは、幼い頃に我が家にやって来たベーカリー機能付きのオーブンレンジがきっかけでした。
父と母が購入して来たそのオーブンレンジには当時としては珍しいベーカリー機能がついていたのです。

 

…しかしながら、残念なことに母は機械に滅法弱い人でした。
ボタン一つで魔法のようにパンを作り上げてくれるはずのベーカリー機能付きオーブンレンジは、まさかの約十年、全く使用されることの無いままに我が家のキッチンでひたすらに、冷たくなってしまった残り物を温め続ける日々を過ごしていたのです。
ならば何故、立派な金額を出して買って来たのかは謎なのですが、ともあれボタン一つで冷えたおかずがホカホカになる便利なツールとして活躍していたのは事実です。

 

購入してそろそろ十年。ご老体のオーブンレンジは引退間近か、と思われました。
そんな時です。ネットを漂っていた私の目に、ホームベーカリーで様々にアレンジされたパンを焼いている主婦の方々の華やかな活動が飛び込んで来たのです。
それはまさに青天の霹靂でした。
材料を入れてボタン一つで出来てしまうとは思えないほど凝ったパンの数々。レーズンやくるみはもちろんのこと、バジルやチーズ、ベーコンなど。縦横無尽にアレンジが施されているパンの数々に心を打たれ。
私も作ってみたい、と思うのにそれほど時間は必要ではありませんでした。
その時に思い出したのです。長年忘れ去られていた我が家のオーブンレンジのベーカリー機能を。
オーブン自身もまさか今更パンを作れと言われるとは思っていなかったと思います。余生をのんびりと、おかずを温めながら暮らすのだと思っていたことでしょう。
私自身も動くかどうか半信半疑で試してみたベーカリー機能。これが見事に動いてくれたのです。
喜び勇んだ私は早速、レシピを公開してくださっている方々に感謝しつつ、魅惑の手作りパンの世界へと足を踏み入れたのであります。

 

結局、老体に鞭打ってしまったせいか、オーブンはその後しばらくして帰らぬオーブンとなってしまいましたが、彼の残してくれたものはとても大きかったのです。
パン作りを始めるにあたり、新たにホームベーカリーを購入して…となるとハードルが高かっただろうと思いますし、オーブンが壊れた後、自家製パンを忘れられなかった私は手こねに挑戦することにしたからです。
ボタン一つの手軽さも良いですが、もちもちとした生地を一生懸命にこねて作る手こねも、手をかけたぶんだけ出来上がったパンへの愛情も増します。

 

パンは小麦粉やバターなど、シンプルな材料で出来るのも魅力の一つです。
しかもその材料は、少し配合を変えるだけで全く違う種類のパンへと変貌します。
ソフト系にハード系。そしてバターを折り込むことでデニッシュへと。
一口にパンといっても、それぞれの種類は食感も味も大きく違うのです。

 

最近では国産の小麦粉も種類が増えましたよね。粉が変わるだけでもパンの食感が変わるんですよ。むしろ同じ配合でも作るたびに出来栄えは変わります。
これだけ色々な顔を見せてくれるパンですから、飽きるなんてことはありません。
そして何より、身近な材料を使って作れる。パンは日常に寄り添う食べ物でもあると思うのです。

 

家庭ではなかなか上手く焼けないのですが、ハード系のパンに今後は挑戦してみたいと思っています。
いつの日か、お店にも負けないようなパンを作ることを夢見て。
パン、大好きです。

 

 

 

 

仕事を辞めたくなる時期はどの会社でも職人でもあると思います。大切なことはどうやって向き合うかですよね。